『落ち椿のように』


夢の林を歩いていました
一面紅く燃ゆる椿の道

あたたかくて 大きくて
あなたの温もりが大好きで
右肩ばかりが微笑っているの

こんなにもいま幸せなのに
どうして涙が止まらないの

夕陽がゆっくりな傾きで
遠い山並みを紅く染めてゆく

わたしの鼓動は
あなたに気付かれることを畏れて
音を殺して打ち続けるドラム

あなたが顔を覗き込むと
作り笑顔は頼りなく
ほの白くなるばかり

こんなにもいま幸せなのに
どうして涙が止まらないの

紅い椿は凛として
いまこの時を咲いている
もうすぐ来る別れなど
なにも知らなげに

心ならずも明日
花を落とすとしても
いさぎよい心根で何も告げぬまま
運命だと散っていくのだろう

紅い椿のように・・私も
いつか落ちる日を
怖れることなく
静かにそこに 咲いていたい
その時まで・・
精一杯 あなたのそばで
咲いていたい


☆☆☆☆☆

椿林にて・・ 早咲きの椿が「落ち椿」となり
一面を紅く埋め尽くした日に・・

132

2005/2/1

revised / 2007.2.27






『遠い日のギフト』


思い出したの
  あのとき小さな手に
かかった白い息
指の間をすり抜けるように
輝く星まで届こうと
空にのぼっていったこと・・

いつからか それは
消えない光となり
私の上に降り続けた

あんなに欲しかった
スミレ色のカバン
あれは遠い日
冬の始まるころ
あなたが最後に
贈ってくれたもの

幸せのかけらが
空から舞い降りた
真っ白なその夜に
あなたのこと綴ったノート
かばんの中にそっとしまったこと・・

いつからか それは
掛け替えのない宝となり
私の心いっぱいに溶けていった

いつの日か
  雲の流れのように
時がゆき・・
思い出はふわり
空に上がっていった

今ね・・
このからっぽの心の中に
あの時のスミレ色のカバンと
茶色い小さなノートが
小さく微笑っているよ

スミレ色のカバンは
あの日の白い息に似て
気高く浮かぶ
優しいギフト

あの日・・
あなたから贈られた
決して消えることのない
遠い日のギフト

126

2004/12/25

revised / 2007.2.21






『風になる』


小さな空を見上げて
怯えながら泣いた
今日こそ涙を拭いて
乾いた風になろう

優しい空を描いて
懐かしさに泣いた
明日は涙を拭いて
虹かける風になろう

遥か暦の向こうがわ
朧な影が埠頭に滲む
沖行く船が首を傾げれば
なぜか遠い空は心許なそう

いいえ
あれからの日々は
今日のために駆け抜けた
だから・・もう
何も迷ったりはしない

心配してくれる人たちに
上手い芝居もできぬまま
自由の空に舞い上がり
心は既に風になる

いま
君だけに吹く風になる
今日こそ
君に寄り添う風になる


vol. 125
2004/12/19

revised / 2007.2.20





『白水仙のなみだ』


きみがきみであり続けること

わずかな希望と深い後悔の淵で
跪き泣き叫んだとしても
いまのきみに
ぼくのこころが
届くことはないのだろうか

きみが一番きみらしく
きみのこころが自由に遊び
まばゆくきみがかがやいていること
それがぼくの変わらぬ願い

きみのなにも語らない目は
虚ろな場所を見つめてる
きみの悲しい唇は
固く結ばれたまま

そう・・
あれはボルドーのゆうべ
木枯らし舞う街で
きみの姿見つけた
足早に交差点の向こうに消えたきみに

追いつこうとしてぼくは
なぜだろう 踏みとどまったんだ

もしあの時 きみを追いかけていたら
もしもきみのうでをつかんでいたら
・・・・・

何があったと言うの?
きみの何が変わってしまったのだろう
そのふかく蒼い瞳の奥に
いま映っているのは何?

ぼくはいつだってきみのそばにいるよ
いまきみに語りかけているのは・・
ぼくだよ

いつかきづいて
ぼくに笑いかけてくれる?
いつかきづいて
ぼくの名前を呼んでくれる?

きみには見えているかい
冬のひだまりで
やわらな陽射しが
きみが好きだった白水仙の花抱いて
こんなにも いっぱい
きみにほほえんでいるよ

こんなにも いっぱい
きみにほおずりしているよ


vol. 123
2004.12.3

revised / 2007.2.19